順益台湾原住民博物館と国立台湾史前文化博物館

 台湾原住民族を知りたくなったら、まず訪ねてもらいたい博物館を二つ紹介したい。ひとつは、台北にある順益台湾原住民博物館。もうひとつは、台東にある国立台湾史前文化博物館だ。順益台湾原住民博物館は台湾原住民の展示を中心にした博物館であり、国立台湾史前文化博物館は、原住民族について大きく展示スペースを割いている。

 

順益台湾原住民博物館

住所:台北市士林区至善路二段282号

TEL:02-2841-2611

FAX:02-2841-2615

開館時間 9:00~17:00(火~日)

休館日 月曜日、旧正月

www.museum.org.tw

(中国語・英語)

音声ガイド:中国語・英語・日本語

土曜、日曜の午後2時に定時ガイドあり。

 

台湾観光の見どころとして筆頭にあげられるのは、故宮博物院。故宮博物院へは、MRT淡水線「士林」駅からバスかタクシーに乗って10分ほどで到着する。その故宮博物院から3分ほど歩いたところに、実は原住民族を知るための重要な場所がある。それが順益台湾原住民博物館。この博物館では、故宮博物院とのコンビチケット(320元)も販売されている。ちなみに、順益単館の入館料は、大人150元、学生・原住民族・65歳以上のシニア100元、小学生以下は無料。団体入館料は2割引となる。

この博物館は、1994年に開館した台湾原住民族を軸とした私立博物館で、原住民の日常生活に関する入門的な知識を得るのに最適な場所となっている。外観は原住民族の家屋をイメージしており、原住民研究を志す人にはぜひ訪れてもらいたいところ。ギフトショップも充実しているので、時間がなければまずここを訪れ、博物館から出版された本やCD、DVD、ビデオなどをチェックするとよい。

地上4階、地下2階の博物館では、理事長の林清富氏が収集してきた民族学関係のコレクション総点数1834点のうちから厳選されたものを展示している。林清富氏のコレクションには台湾の芸術家による作品もあり、民族学関係の収蔵品とともにインターネット上でも解説がつけられてデジタル公開されている。地下一階には映像ブースが特設してあり、貴重な映像を選んで視聴もできる(各編約30分)。

展示は階ごとに「人と自然環境」、「生活と器具」、「衣飾と文化」、「信仰と祭儀」にわかれていて、地下では特別展がおこなわれている。特に注目すべきは、3階の「衣飾と文化」と地下1階の年表コーナー。「衣飾と文化」では選び抜かれた衣服ととんぼ玉などが展示されており、習慣としてかつておこなわれていたタイヤルのイレズミについて解説されているほか、白い貝製のビーズが前面に房飾りのようにつけられた地の布の紅色との対照が鮮やかなタイヤルの衣装、目の文様が織りだされた織布、プユマ男性の色鮮やかなズボンなどが目をとらえる。地下1階の壁にめぐらされている年表は、原住民族の歴史がわかりやすくまとめられている。中国語の年表だが、80年代からの原住民族の権利運動から現代までの流れがある程度読み取れるはず。

博物館の向かいの「原住民主題公園」の広場には、アミ、タイヤル、パイワンなど各原住民を表した石版彫刻がたてられている。各石板には北京語と英語で各原住民の特徴や人口、分布地などが紹介されている。公園は入り口の広場、遊歩道、渓流、景観池、そして休憩の5つのエリアにわけられていて、台湾原住民族の芸術家が作った彫刻やトーテムポールなどが点在している。実物大で再現された穀物倉や竹製の家屋なども設けられていてが、よくもわるくも、現代台湾における原住民族イメージを知ることができる。

 

 

 

国立台湾史前文化博物館

住所:台東市豊田里博物館路1号

TEL:089-381-166

入館料 大人80元、学生50元

音声ガイド:中国語・英語・日本語・青少年向け

開館日の9:30、10:30、14:30、15:30に定時ガイドあり。(中国語)

 

卑南文化公園ビジターセンター

住所:台東市文化公園路200号

TEL:089-233466

開館・開園時間 9:00~17:00(火曜~日曜)、午前10時と午後3時に定時解説(中国語)

休館日 月曜日、旧正月

ビジターセンターの入館料 大人30元、学生15元(入園は無料)

 

65歳以上と身長が120センチ以下の児童は無料、毎週水曜日は学生無料(学生証を提示すること)。特別展示は別料金。

www.nmp.gov.tw/ (中国語、英語、日本語)

 

 

 台湾の東海岸の町、台東。この台東にある国立台湾史前文化博物館と卑南遺跡に隣接してつくられた卑南文化公園とビジターセンターは、丹念に見学すれば一日がかりとなる。台東を訪れたら、ぜひ一度は訪れたい場所である。

台湾の先史時代と台湾原住民族の展示が中心の博物館へは、台東駅と台東空港からおよそタクシーで10分。最寄り駅の台鉄南周り線「康楽」駅から博物館へは徒歩5分。卑南文化公園には、台鉄南周り線「台東」駅で下車して歩いて15分かかる。博物館の敷地は広く、敷地内にはパイワン人の芸術家である撒古流(サクリュウ)氏の手になるオブジェやイースター島のモアイなどが点在し、後方にも広い公園がある。博物館本館裏手の公園は無料で散策できる。本館では、午前11時、午後5時、午後8時にそれぞれクラシックの名曲にのって、水が踊るように吹き出る噴水が20分楽しめ、子どもが楽しめる迷路や遊具があるので台東を訪れる観光客に人気がある。

博物館の常設展示は、台湾島の初期の姿から地質の変化をたどる「台湾の自然史」、1階におりていくと卑南遺跡の出土物を中心に「台湾の先史時代史」展示がある。そこからふたたび2階に戻ると、社会組織や年齢階梯制、祭儀や精霊に関する観念、刺青の習慣などの各テーマを、台湾原住民族のなかの一民族の例をあげて解説している。博物館の壁面にはタイヤルの女性たちが手織りしたタペストリーが飾られるなど、さまざまな箇所で台湾原住民族の現代作家によるオブジェが目に留まる。常設展を観るだけでも充実しているが、特別展示も有料と無料のものがあり、それぞれに楽しめる。

博物館のギフトショップは台湾でも有数の品ぞろえで、かつては原住民族が制作したアクセサリーや関連書籍、CDの扱いが充実していた(・・)。過去形で書いたのは、中国大陸から来た観光客向けに、珊瑚やガラス彫刻を売るようになったから。ちなみに、博物館脇にはホテルはあるものの、近隣にはコンビニなどの商店はないが心配はいらない。博物館のフードコートはそれなりに充実している。

博物館後方から入館できる教育資源中心(「教育資源センター」)にも、考古学、文化人類学、人類学、自然史、台湾原住民族研究に関する書籍や雑誌が揃えられている。このセンターは、児童向け設備の色彩が強いが、閲覧コーナーのほかDVDやビデオなどの視聴コーナーが設けられていて、台湾原住民族に関するDVDやビデオを観ることができる。ほかにも、1万8千冊近い専門書を中心とした張光直記念図書室が設けられるなど、各設備が充実している。原住民族テレビの台東支局も博物館内に設けられていて、ここでニュースなどの収録も行われている。

 この博物館には、卑南文化公園に卑南遺跡を中心とした別館がある。台湾鉄道が発着する台東駅から徒歩15分ほどの卑南文化公園に卑南遺跡とビジターセンターが設けられている。卑南遺跡は、明治の人類学者である鳥居龍蔵が4度の発掘をおこない、1896年に地表にあらわれた石柱を2枚の写真におさめている。鳥居による発掘ののちも、たびたび日本人や台湾人の考古学者によって発掘記録が残されてきた。その後、遺跡や石柱は荒廃が進んでいたものの、1980年に台東駅の拡張工事中に石棺墓の一部が再発見された。その発見を受けて再調査の呼び声が高くなり、台湾大学遺跡発掘隊がおよそ10年間の調査をおこない、1500基を超える古墳と数万点の土器、石器などを見つけだした。発掘面積は1万㎡以上となる卑南遺跡は、台湾考古学史上、発掘面積最大で、新石器時代中期及び後期の重要な遺跡と位置づけられている。規模としても、環太平洋・東南アジアの最大の石棺墓群といわれる。

卑南文化公園では、遺跡発掘現場が屋根がけされていて直接見学できる。公園のここかしこに遺跡見学ポイントがあるうえ、プユマの南王集落が近隣にあることから竹づくりの少年集会所などが設けられている(外から眺めるだけで、立ち入り禁止なのが残念!)。南王集落が卑南文化公園のある土地は伝統的な生活領域と主張していることも踏まえ、最近博物館は集落の人々と組んで、さまざまな伝統再生プロジェクトをおこなっている。公園奥にはビジターセンターがあり、台湾の東海岸の遺跡を中心にした展示が見学できる。

国立台湾史前文化博物館では、2014年現在、台南に考古学を軸にした新分館を建設中であり、台湾人に大人気の国立台湾歴史博物館とあわせて注目のスポットとなりそうだ。